スペシャルティコーヒー界の眠れる巨人、、ペルーVOL1
南米大陸の太平洋岸に位置するペルー。面積は南米で3番目に大きく、北はエクアドルやコロンビア、東はブラジル、南はボリビアやチリといった国々と国境を接している。沿岸部の低地はコスタと呼ばれる砂漠地帯、東部はセルバと呼ばれるアマゾン川流域地帯、そしてシエラと呼ばれる中央の山岳地帯にはアンデス山脈が南北に貫いている。
ペルーといえばマチュピチュ遺跡やクスコに代表されるインカ帝国の遺産、あるいはナスカの地上絵などの観光地が有名だが、多様な食文化も見逃せない。首都のリマには星付きのガストロノミー(美食)が軒を連ね、山岳部に分け入ればクイ(テンジクネズミ)料理やチュペ(煮込みスープ)といった伝統的なアンデス料理も味わえる。
多彩な魅力を持つペルーだが、コーヒー産地としての知名度はというと、決して高くはないのが実情です。荒野がが自家焙煎(ばいせん)珈琲店を営み始めた2010年代を思い返しても輸入商社からコーヒー豆を仕入れる際にサイトの目立つ位置にはブラジル、グァテマラ、マンデリン、アフリカ諸国のいわゆるスペシャルティコーヒーといっった銘柄が並んでおり、ペルー産の豆は端っこに、控えめにある程度の扱いだった記憶です。
徐々に品質を重視するスペシャルティコーヒーという新たな価値観が生まれ、未来志向の生産国を中心にスペシャルティコーヒーへとシフトしていく機運が高まる中、ペルーはその流れに乗れずに完全に取り残されてしまったようです。
——スペシャルティコーヒーの生産を阻んだ国内事情——–
もっとも、グローバルな視点で捉えれば、ペルーは決してマイナーな生産国ではなくコーヒー豆の生産量は世界のトップ10に入り、南米では大国ブラジル、コロンビアに次ぐ堂々の3番手。輸出先には米国やドイツをはじめとする消費大国が名を連ね、コマーシャルコーヒー(コモディティコーヒー)の市場では十分に存在感を示しているのが現状でした。
しかしそれならばスペシャルティコーヒー市場への参入も同様に、とはいかないのが現実らしく、各生産国各々産業構造も、コーヒーに求めるプライオリティーも異なるわけです。「どの国でも、もっとおいしいコーヒーを生産するようになればいいのに」と考えるのはもっともかもしれないが、それはあくまで消費国の立場からの意見。生産国には生産国なりの事情もあります。
1990年代以降、ペルーで重視されてきたのは認証コーヒーと呼ばれるものだった。認証コーヒーとは非営利団体や第三者機関による審査基準に基づいて評価・認定されたコーヒーのこと。オーガニックコーヒーやフェアトレード、レインフォレスト・アライアンスといった言葉をあなたも一度は耳にしたことありますよね。
これらの制度はサステナビリティー(持続可能性)や商品の安全性を担保するだけでなく、生産者支援の意味合いも大きく、特にアメリカには地域・社会貢献に対する独特の市場があり、経済的貧困を抱えるコーヒー生産国にとって、認証コーヒーというお墨付きは自国のコーヒーを売り込むためのよい“武器”だったわけです。
ペルーにとってもコーヒーにかけられるリソースが限られる中、認証コーヒーに注力することで一定の市場を獲得できていたのは事実で、その意味では当時のペルーのコーヒー業界にドンピシャな制度でした。
逆に言うと・・・・
この段階ではスペシャルティコーヒー市場へ無理に参入することはリスクでしかなかったわけです。
次回に続く・・・